私たちは、毎日様々なストレスに出会い、それを上手に乗り越えたり活かしたりしながら生活をしています。前編では、そのストレスを“適度なストレス”とするためには、「考え方」がキーポイントだというお話をしました。
「考え方」というのは、言い換えれば「情報処理」のことです。私たちはある出来事があったという情報を自分なりに処理して、行動したり気分や身体に変化が表れたりしています。この「情報処理」は、普段は意識しないで瞬間的にできています。しかし、疲れていたり体調が悪いとき、苦手なことに出遭ったとき、そして悩んだり落ち込み・不安を感じたりしているときは、その瞬間の判断が必ずしも現実に即していないことがあります。
失敗した時にふと、「何をやってもだめだ」「いつもこうなんだ」という考えがよぎります。“このこと”を失敗したのに「何をやっても」と考えると、失敗ばかりしているように思えてきますし、“いま”失敗したのに「いつも」と考えると、常に失敗し続けている感覚になってきます。そして、あたかも自分が考えていることが事実のように思えてきて、知らないうちに自分に暗示をかけてしまうのです。これが、ネガティブな思考の正体です。情報処理が上手くいかないことで、頭に浮かんできた間違っているかもしれない考えを現実だと認識してしまうのです。
情報処理が上手くいかないときというのは、たいていの場合は情報が足りていません。情報が多くなればなるほど、私たちは的確で適切な判断ができるようになります。しかし、自分の弱いところを突かれると、ぱっと問題に目を向けてしまいます。そうすると全体が見えなくなってしまって、必要な情報が十分集まらなくなります。そして、いったん思い込んでしまうと、そこからなかなか抜け出せなくなってしまいます。それが、過度のストレスを感じているときの状態です。
睡眠が安定しない、些細なことでイライラしたり落ち込んだりする、人づきあいが億劫になるなど、いつもと違う変調に気が付いたときには、少し立ち止まって何が起きているのかを確認してみることが大切です。こころや身体の変調によって、考え方がいつもよりもネガティブに偏りやすくなっているからです。変調に気が付いたら、無理をして頑張ろうとせず、少し休憩を取ったり誰かに相談をしたりしてみましょう。そうすることで、思い込みという悪循環にハマることなく、本来の「考え方」を取り戻すことができます。
そして、ネガティブな考えやイメージが頭に浮かんだときは、まずはできるだけ様々な情報を集めてみましょう。その情報をもとに、自分の考えがどの程度現実的なのか、本当に自分にとって有用なものなのかについて見つめ直すことができれば、気持ちのつらさが和らぎますし、実際的な問題に適切に対処できるようになります。普段の生活ではほとんど意識することのない「考え方」に着目してみることが、ストレスに上手に向き合うための一助となるのです。
執筆者:木ノ内満玲(公認心理師・臨床心理士)
参考文献:
竹田伸也(2024).「一人で学べる認知療法・マインドフルネス・潜在的価値抽出法ワークブック」遠見書房.
大野 裕(2015).「マンガでわかりやすいうつ病の認知行動療法」きずな出版.