みなさんは、「反芻」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。先日、PubMed®という生物医学文献の検索サイトで「rumination(反芻)」という言葉を検索したところ、2000年頃から急激に文献が増えていました。それだけ「反芻」に注目が集まっていることが分かります。
「反芻」とは、もともと動物の食べ物の消化の仕方のことで、口で咀嚼したものを胃に送って部分的に消化したあと、再び口に戻して咀嚼する、という過程を繰り返すことを指します。これと同様に、心理学で使われる「反芻」は、過去の出来事や自分のことについて、頭の中で繰り返しぐるぐる考えることをいいます。
この「反芻」は、うつ病や不安症などの心の問題につながることが分かっているため、精神療法では「反芻思考=ぐるぐる思考」という言葉を使い、治療のターゲットとして位置づけます。
「私、ネガティブなんです」「そんなネガティブに考えないの!」という会話から想像される“ネガティブな人”は、多くの場合、過去の体験や自分のことについて繰り返し考えているイメージではないでしょうか。一瞬はネガティブに考えるけれど、そのあとすぐに切り替えられる人は、そもそも“ネガティブな人”という印象を持たれないと思います。要するに、“ネガティブに考える”ということは、ぐるぐる思考とセットとなっている状態が多いのです。
どうして私たちがぐるぐる考えてしまうのかというと、これまでの経験の中で、ぐるぐる考えることによって何かしらのメリットがあったからです。過去の失敗を何度も分析することで、同じような失敗をしないように準備ができたのかもしれません。過去の嫌な経験を何度も考えることで、同じような状況での相手の出方を予測して先手を打てたのかもしれません。過去の理不尽な体験を繰り返し考えることで、自分の正当性を確認できたのかもしれません。そうやって、私たちは、「ぐるぐる思考」が役に立つと学習してきたのです。そして、いつのまにか、ぐるぐる考えることが“くせ”になってしまったのです。
「ぐるぐる思考」は、ストレスや困難に対する自然な反応で、多くの人が使っています。
ですが、ぐるぐる考えることによって行動がとれなくなったり、四六時中ぐるぐる考えて仕事や家事に支障が出たりすることがあれば、やはり「ぐるぐる思考」はなんとかした方がよいでしょう。そして、その『なんとかした方がよいぐるぐる思考』には、特徴があります。よくありそうな例を挙げてみましょう。
『発注が遅れたことを先方に謝らないとならない。でも、怒鳴りつけられたらどうしよう。今回のことで、取引を解消されたらどうしよう。そうしたら、私の評価は下がってしまう。みんな上手くいっているのに。みんなからどう思われるだろう。仕事を辞めなくてはならなくなるかもしれない』
ぐるぐる考えているうちに考えている内容が本筋から外れて、内容が漠然としてきたり、過度に一般化(みんな〇〇だ)されたりして、破局的な考えになっていることがお分かりになると思います。『なんとかした方がよいぐるぐる思考』は、抽象的に考えていることが分かっています。そうすると、つらい気分がますます大きくなってしまいます。
では、このような『なんとかした方がよいぐるぐる思考』は、どのように対処したらよいでしょうか。次回、詳しく説明していきます。
執筆者:木ノ内(小澤)満玲(公認心理師・臨床心理士)
参考文献:
大野裕監修 梅垣祐介・中川敦夫 (2025).「反すう」に気づいてぐるぐる思考から抜け出そうー認知行動療法に基づくセルフケアブック. 岩崎学術出版社.
エドワード・R・ワトキンス著 大野裕監訳 梅垣祐介/中川敦夫訳(2023).「うつ病の反すう焦点化認知行動療法」. 岩崎学術出版社.