働く人たちにとって、ストレスは付き物です。厚労省の「労働安全衛生調査(実態調査)」でも、仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は、令和4年は82.2%という結果が出ているように、ほとんどの人たちが職場でストレスを感じています。
ストレスというとネガティブなイメージがありますが、必ずしもそういうわけではなく、高すぎず低すぎない適度なストレスがあるとき、やる気が高まり最適なパフォーマンスを発揮できることが分かっています(ヤンキー・ドットソンの法則)。「なるほど、適度なストレスが良いのね!」と思いますが、具体的に考えてみると“適度なストレス”というのは、かなり曖昧です。
例えば、“上司からの期待”について考えてみましょう。始めはやる気に満ち溢れて業務をこなしていたとしても、自分がイメージしていたように業務が進まなかったり、先輩から業務のやり方について指摘されたりすることがあると、徐々に上司からの期待をプレッシャーに感じるようになって、過度なストレスと体験されていく可能性があります。ここで“可能性があります”と書いたのは、同じ状況でも人によって感じ方が異なるからです。
たとえばAさんは、
自分がイメージしていたように業務が進まず、「上司から仕事ができないやつだと思われたに違いない」と考えるようになり、さらに先輩から指摘されて「やっぱり私は何をやってもだめなんだ」と考えて、上司からの期待が過度のストレスと体験されていきます。
一方Bさんは、
自分がイメージしていたように業務が進まなくても、「これを乗り越えれば上司の期待に応えられる」と考えて奮起し、先輩からの指摘を受けて「いいことを聞いた。これでやり方を改善できた」と前向きに業務に取り組み、上司からの期待が適度なストレスとなって十分なパフォーマンスを発揮できます。
さらにややこしいことに、このようなことは人の違いによってのみ生じるわけではありません。同じ人の中でも、その時々のコンディションや状況によって受け止め方は変わります。Bさんも、体調が悪かったり疲れているときは、普段よりも考え方がネガティブに偏るでしょうし、Bさんがどうしても信頼を勝ち取りたい上司からの期待だったとしたら、過度に緊張して些細なミスも許すことができなくなって、イライラや不安が募り、失敗が増えてしまうかもしれません。
同じストレス状況であっても、そのストレスをどう受け止めるのか、つまり「考え方」によってストレスの感じ方は変わります。その時々の「考え方」が、やる気や前向きな気持ちに影響を与えて“適度なストレス”を決めているのです。もちろん、処理しきれない過度なストレス状況というものは存在します。そのような時も、「これは自分には負荷が強すぎる」と考えて、早めに休息を取ったり周囲に相談するなどの対処をとったりすることで、“適度なストレス”に調整することができます。
このように、「考え方」はストレスに対処するための重要なポイントになります。では、どのように「考え方」にアプローチすればよいのでしょうか。次回のコラムで詳しく説明していきます。
執筆者:木ノ内満玲(公認心理師・臨床心理士)
参考文献:
竹田伸也(2024).「一人で学べる認知療法・マインドフルネス・潜在的価値抽出法ワークブック」遠見書房.
大野 裕(2015).「マンガでわかりやすいうつ病の認知行動療法」きずな出版.