前回のコラムの最後で言及したCBT-I(不眠に対する認知行動療法:cognitive behavioral therapy for insomnia)ですが、睡眠薬に劣らない効果があるというエビデンスが数多く示されています。
CBT-Iは、不眠が続く原因となっている生活や睡眠習慣を修正したり、睡眠に対する過度の不安やとらわれを軽減したりすることによって、睡眠につながる生活習慣を身につけることを目的とした心理的アプローチです。CBT-Iは臨床場面で定期的に行うプログラムですが、そのような機会を提供できる施設や人員が限られているため、CBT-Iを簡便化した睡眠認知行動療法プログラム(簡便化CBT-I)が開発されて、近年の研究で不眠へのアプローチとして有効であることが分かってきています。
簡便化CBT-Iの詳細は専門書に譲るとして、ここではCBT-Iの中でも、「眠れない時」のポイントに絞っていくつかお伝えしていきます。
1つ目は、『20分経っても眠れない時は、一旦ベッドから出る』です。
私たちは意外と「場所」と「行動・考え」が結びついている生き物です。楽しいことがあった場所に行くと楽しかったことをふと思い出したり、TVを観ながらおやつをつまんでいると、いつのまにかTVを観る時はいつも口寂しくなったりしてしまうのも、その場所で行う(行った)行動や考えを無意識に学習しているからです。ベッドを「寝る場所」として学習するためには、ベッドを睡眠以外の目的で使わず、眠くなったらベッドに入るなど、「ベッド=寝る場所」と自分自身に学習させることが大切なのです。「眠れないからベッドにいよう」は逆効果なのです。
2つ目は、『休日の睡眠リズムこそ整えましょう』です。
なぜなら、労働者の睡眠リズムは休日に崩れることが少なくありません。平日の睡眠不足を休日に補うことは悪いことではありませんが、体内時計は朝5時から9時までの間に目から光を取り入れることで調整されるので、せめて9時までには起床して日光を浴びるようにしましょう。また、昼寝は15時前に30分以内で行い、適度な運動を取り入れることも、体内時計をリセットするのには必要です。「休日に平日の睡眠を取り戻そう」は、ほどほどに。
3つ目は、『リラックスするための入眠儀式を作りましょう』です。
子供の頃、毎晩親が本を読み聞かせてくれたり、背中をトントンしてくれたりすると、いつの間にか寝てしまうことがあったのではないでしょうか。親が子供の入眠前にしているルーチンの儀式は、暗闇が怖い子供の不安を軽減しリラックスさせる役割があります。毎日続けることで、条件付けが生じて少しの時間で睡眠に入ることができるようになります。これは大人も同じです。自分がリラックスできることを見つけてルーチン化しましょう。本を読む、アロマを嗅ぐ、ペットを触る、マッサージをする、などリラックスできればなんでも構いません。リラックスのためには、「考えるより行動を」です。
眠る時は刺激が少ないため、どうしても頭の中で気がかりなことや不安なことを考えやすくなります。そして、充分頭が働いていないため、考えや感情がネガティブに偏ってしまってつらい体験になりやすいのです。まずはそのつらさに共感的にかかわること、そして、睡眠について正しい知識を伝え、睡眠に効果的なことに集中してもらうと、過度に睡眠時間や心配・不安なことに囚われずに済み、睡眠が安定していきます。
執筆者:木ノ内満玲(公認心理師・臨床心理士)
参考文献:
大野裕(2015).「マンガで分かりやすいうつ病の認知行動療法」きずな出版.
大野裕・田中克俊(2017).「簡易型認知行動療法実践マニュアル」ストレスマネジメントネットワーク.
田中美加他(2018) .簡易型睡眠認知行動療法の高齢者の睡眠改善および睡眠薬減量に対する効果:無作為化比較試験 日本公衛誌65(8) 386-398.