新しい年が始まりました。みなさんは、今年の抱負を立てたでしょうか。「昨年は本をあまり読まなかったから、今年は月5冊本を読もう!」「2025年は、もう少し家族の時間を取るぞ」というように、昨年の自分自身を振り返りながら、もしくは昨年立てた抱負を見返しながら、この1年で成し遂げたいこと、今年こそは取り組んでみたいことへの決意を固めたかもしれません。
しかし、抱負を立てたからといって、常にそれを意識して行動できるかというと、なかなか難しいのが人間の性です。初めはやる気満々に頑張っているのですが、1ヶ月もすれば抱負を立てたことなんかすっかり忘れて、日々目の前のことに忙殺されて、いつの間にかまた1年が経ってしまった…なんてことは、私自身を振り返ってもよくあることです。
なかには、毎日寝る前に1日の自分を振り返り、反省したり満足したりして、明日の自分に気合いを入れて過ごしている方もいらっしゃるかもしれません。それで心身健康に過ごせるのであれば素晴らしいことですが、突発的なことが入って計画通りに行かなくてイライラしたり、体調を崩しているのに無理に頑張って余計に体調が悪くなったりするのであれば、その抱負はそもそも何のために立てたものなのかということについて、再度考え直す必要があります。
また、抱負自体が立てられない方もいらっしゃるかもしれません。「そろそろ資格を取って上を目指した方がいいのだろうけれど、できるかな」と不安になったり、「また、新たな1年が始まってしまった、また1年頑張らなくてはならないのか…」と憂うつになったりして、「自分がどうしたいのか分からないし、願いなんてない」ということもあるでしょう。
「苦悩に出会ったとしても、自分にとって大切なものを見失わずに、“今”を感じながら人生を豊かにしていく行動をとる」ことを目指すACT(アクセプタンス&コミットメントセラピー)という心理療法があります。ACTでは、自分にとっての価値に沿った行動をしていくことが、人生を有意義にすると考えられています。
ここでいう“価値”とは、自分は人生で何を大切にしていきたいか、どのような人になりたいか、世界・周りの人・自分自身とどのように関わりたいか、などの「こうありたい」という心の奥深くにある願いです。いわばコンパスのようなもので、人生の旅路において、迷いそうになった時の道しるべとなるものです。
抱負を立てたことを忘れて日々目の前のことで精一杯のとき、その過ごし方は自分にとっての価値に沿うものでしょうか。抱負の通りに頑張ることで心身の不調が生じるとき、その頑張りは自分にとっての価値に結びついているでしょうか。そもそも新年に立てた抱負は、自分にとっての価値と同じ方向を目指しているものでしょうか。
「抱負が立てられない」と悩む時、そこに生じる不安や憂うつなどのネガティブな感情は、価値と繋がる何かがあると心が教えてくれています。上を目指せるか不安になる時は、上を目指すことが大事だと思っている証拠ですし、頑張ることに憂うつな場合は、その頑張りに意味を見出せていないからでしょう。
自分にとっての価値が明確になっていると、たとえ人生で辛いことがあったとしても、自分が大切にしたいものに向かっていけます。ネガティブな気分に必要以上に惑わされず、豊かな人生を歩むことができるのです。
せっかくなので、少し時間をとって、自分にとっての価値はどんなものなのかについて考えてみませんか?この1年間、価値に沿った行動を心がけてみませんか?次回は、自分にとっての価値は何なのかについて明確にする方法をいくつかご紹介していきます。
執筆者:木ノ内満玲(公認心理師・臨床心理士)
参考文献:
武藤崇 (2023).「ACT 不安・ストレスとうまくやるメンタルエクササイズ」主婦の友社.
ラス・ハリス (2012).「よくわかるACT 明日から使えるACT入門」星和書店.