前回は、不安の対処方法として、不安を感じている時に陥りやすいネガティブなバイアスに気付き、それを見直して現実的なものに戻すという方法をお伝えしました。今回は、「不安と戦わない」方法についてお伝えしていきます。

不安はとてもつらい感情です。胸がざわざわしていてもたってもいられなくなり、その不快な感覚を取り去るために様々なことをするかもしれません。不安になっている原因探しをする、不安なことが起きないように用意周到に準備をする、不安なときの対処方法をインターネットで調べてみるなど、様々な方法で不安をなくそうと頑張りたくなります。

それで不安がなくなれば万々歳ですが、実際は、一時的に不安が和らいでも次から次へと不安なことは出てきます。そして、結局一日中不安に振り回されていた、なんてことがよく起こります。不安は、なんとかしようとすればするほど、ますます不安になってしまうという性質を持っています。不安と戦おうとすると、不安にはなかなか勝てないのです。

そもそも、不安は人間にとって「いまそこに危険がありますよ」と教えてくれる感情です。不安という感情があるから、私たちは危険な目に遭わないように準備をしたり、危険を避けたりして生活することができるのです。

もし、不安という感情がなかったら、私たちは命を落としてしまう可能性だってあります。つまり、不安という感情を感じずに生きていくことはできないのです。うまく共存していくしかないのです。では、不安と戦わずに上手く共存するためには、どうしたらよいのでしょうか。

子供の頃を思い出してみてください。ゲームをしている時にお母さんから「宿題やりなさい」と言われ、「はーい」と返事をしてそのままゲームを続けたことはありませんか?初めて言われたときは、“まずい!”と思ってゲームを終わりにして宿題に取り組んでいたかもしれません。でも、それが何度も続くと、「宿題やりなさい」という小言は単なる雑音になり、右耳から左耳に素通りしていきます。そして、「ここで文句を言ったらキレて面倒くさいから、とりあえず返事をしておこう」と考えて、お母さんに反抗せず「はいはい、いまやりますよ」とやり過ごしたことはないでしょうか。

「お母さん」を「不安」と置き換えてみましょう。初めは不安に反応してしまうのは仕方ないとしても、「とりあえず返事をして小言を受け流すこと」つまり「はいはい、不安はあるけれど、今はこっちをやろう」と目の前のことに集中していると、だんだんとその状況に慣れて不安そのものに惑わされなくなります。

“不安はなくそうとせずそのままにしておき、自分のやりたいこと、やらねばならないことをそのまま続ける”、これが不安と戦わずにうまく共存するための方法です。

不安は、それをそのまま受け入れていると自然と小さくなっていきます。不安にはピークがあり、その時はとても耐えがたいものですが、15分もすれば次第に弱まっていくことが分かっています。その状態に抗わずに「今」やるべきことに集中していると、不安のつらさは必ず治まっていきます。すぐには難しいかもしれませんが、「不安と戦わない」姿勢を保てると、少し過ごしやすくなるかもしれません。

執筆者:木ノ内(小澤)満玲(公認心理師・臨床心理士)


参考文献:
デビッド・A・クラーク&アーロン・T・ベック 大野裕監訳(2024)「不安・心配と上手につきあうためのワークブック」 岩崎学術出版社
デニス・グリーンバーガー他 大野裕監訳(2017) 「うつと不安の認知行動療法練習帳」 創元社
ドーン・ヒュープナー 上田勢子訳(2017)「だいじょうぶ 自分でできる心配の追い払い方ワークブック」 明石書店