みなさんは、“認知行動療法”という言葉を聞いたことがあるでしょうか?「なんとなく名前だけは聞いたことあるかも・・・」という方もいれば、「なにそれ?難しそう・・・」という方もいらっしゃると思います。

認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy)は英訳の頭文字を取ってCBTとも呼ばれている心理療法で、うつ病や不安症 といった精神疾患の治療法として開発されました。現在までに、多くの医学研究によってその有効性が認められ、精神保健上の問題に対する治療法として世界中で使われています。

もれなく日本でもその有効性が国に認められ、2010年にうつ病などの気分障害  、2016年に強迫症や社交不安症、パニック症、心的外傷後ストレス症 、2018年からは神経性過食症 に対して保険診療の対象となりました。医療のスタンダードになりつつある認知行動療法ですが、まだまだ提供できる医療機関は限られているため、全国への普及を目指して、オンライン型・簡易型(短縮版)・集団型など、様々なタイプの認知行動療法の研究も現在進行中です。

認知行動療法では主に、“認知”と“行動”を扱っていきます。“認知”というと難しい印象を受けるかもしれませんが、簡単にいえば“ものの受け止め方や考え方”のことです。

つまり認知行動療法とは、『物事の受け止め方を柔軟にしたり、行動の幅を広げたりすることで、気持ちや身体の辛さを和らげたり、問題を解決したりすることを目指す』心理療法といえます。

私たちの認知や行動には、人間の本能として瞬時に生じるものや、これまでの経験から形成されているパターンがあります。メンタルの不調が続いている時、問題がなかなか解決できない時は、この“瞬時の反応”や“パターン”が  問題解決を妨げたり、自分を苦しめたりしていることが多いのです。認知行動療法では、まず「どうして問題が起きているのか」という仕組みについて理解していきます。そして、困りごとに合わせた様々なスキル(技法)を習得しながら、心を元気にするための方法を学んでいきます。

認知行動療法を実施した後のフォローアップとして患者さんとお会いすると、「以前は、仕事上のミスを指摘されただけでも 、すごく不安で眠れなくなっていましたが、今回は“非難されているわけじゃないんだ”と考えを切り替えられました」「嫌なことが続いて引きこもりたくなりましたが、ジムだけはなんとか続けています。やっぱりジムに行った方が、気分が変わりますね」など、新たなストレス場面を上手に乗り越えることができていらっしゃる印象を受けます。こうした方々にお会いすると、再発予防として認知行動療法が役立っていることがよくわかります。このような側面を踏まえて、最近では休職後の職場復帰に向けたリワークプログラム  の中に認知行動療法のエッセンスを取り入れることも多くなってきています。

ここまでお読みになり、認知行動療法はどんなものかということがなんとなく  お分かりいただけたでしょうか。次回は、この認知行動療法が、世界(主にアメリカとイギリス)ではどのように活用されているかについて、簡単にご説明させていただきます。

執筆者:木ノ内(小澤)満玲(公認心理師・臨床心理士)


参考文献:
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平成23年度厚生労働科学研究費労働安全衛生総合研究事業「労働者のメンタルヘルス不調の第一次予防の浸透手法に関する調査研究」研究班 2012b
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