前回、認知行動療法は、“考え方(認知)を変える”ではなく“考え方(認知)が変わる”ことで、辛かったり苦しかったりする気持ちを緩和する心理療法であるとお伝えしました。今回は、認知行動療法という心理療法で“考えが変わる”とは、どういうことかについて、3回に渡ってお話していきます。

私たちが日々を過ごす時、様々な考えが自然と頭の中に浮かんでいます。くしゃみをした瞬間に「あ、風邪ひいたかな?」とか、メールの返信が来ていないのを確認した時に「私、何か気に障ったことを言ったかしら」とか、人とぶつかった時に「前を見て歩けよ!」とか、子犬の動画を見て「かわいいなあ」とか、ふとした瞬間、頭の中に考えが浮かんでいます。そうした考えを認知行動療法では『自動思考』と呼びます。

この自動思考は、その時感じている気分と強く結びついています。その中で、不安・落ち込み・怒りなど、ネガティブな気分になったときの自動思考は、しばしば極端だったり偏りがみられたりします。

なぜかというと、人間はどうしても、自分の体験を中心に物事を考えてしまうからです。私たちは、これまでの自分の経験や身近な人から学んだ事柄によって、「考え方のくせ」が身に付いています。“なくて七癖  ”と言われるように、「考え方のくせ」は誰にでもあるものですし、咄嗟に物事を判断するのに役立つ場合もあります。

※なくて七癖:癖がないように見える人でも、よく見ていると7つくらいの癖は見つかる。どんな人でも多少は癖があるという意味。

実は、この「考え方のくせ」が“自分にはある”と知るだけでも、“考えが変わる”ことにつながります。「考え方のくせ」のパターンはいくつかありますが、代表的なものに『べき思考』『全か無か思考』『個人化』などがあります。

『べき思考』は、自分や他者に対して「こうすべき」「ああすべき」など考えて、生活が窮屈になったり、自分や他者の失敗を許せず、怒りや緊張を感じやすくなったりします。『全か無か思考』は、物事に完璧を求めるため、納得できないと「失敗」と考えて自信を失いがちです。『個人化』は、良くない出来事が起こると、自分に関係がないにも関わらず、自分のせいだと考えて自分を責めてしまいます。

例えば、メールの返信が来ていないのを見て、「何か気に障ったことを言ったかしら」「返信しないなんてひどい」と考えて落ち込んだり怒ったりしたとしましょう。ここで、「私は、また自分のせいだと考えているな(個人化)」と気付けると、「私が何かやったのではなく、相手も忙しいのかもしれない」と、違った世界が見えるかもしれません。「私は、“今日中に返信すべき”と考えているのかもしれない」と気付けると、「とりあえず明日まで待ってみよう」のように、違う行動をとることもできます。このように、自分の「考え方のくせ」を知っておくと、自然と考えが“変わる”のです。

「考え方のくせ」は、長年染みついたものですし、自分になじみがある考え方なので、すぐにそれと気づくのは難しいかもしれません。ですが、意識する頻度が高くなるほど「考え方のくせ」に気付きやすくなりますし、様々な経験を通じて、いつのまにか「考え方のくせ」自体がなくなっていることもあります。私がお会いしている方々の中にも、時間の経過とともに、いつのまにか自動思考そのものが変わった、という方もいらっしゃいました。セラピストと一緒に時間を重ねて、考えについて検討した結果ではありますが、“考え方は変わる”と実感しています。

認知行動療法では、今回お伝えした「考え方のくせ」にアプローチする方法以外にも、認知(考え方)にアプローチをして“考えが変わる”ことを手助けする方法である「認知再構成法」というアプローチがあります。次回は、そのことについて詳しくお伝えしていきます。

 

執筆者:木ノ内(小澤)満玲(公認心理師・臨床心理士)


参考文献:
竹田伸也(2019). 「マイナス思考と上手につきあう認知療法トレーニング・ブック」 遠見書房.