今回は、「認知再構成法」というアプローチによって、考えが“変わる”ことについてお話していきます。

「認知再構成法」は、認知行動療法の中でも肝になるアプローチですが、小難しい名前だな、といつも思います。「Cognitive restructuring」を日本語に訳したもので、「再び(re)築く、建てる(structure)」という意味です。前回お話した自動思考(自然と頭に浮かんでくる考え)が自身を苦しめているとき、その考えをもう一回見直して分解して組み立て直しましょう、という方法です。要するに、視野を広げる手順を論理的に解説したものが「認知再構成法」になります。

人は、心が元気な時は視野が広いため、ふとネガティブな考えが頭をよぎったとしても、適応的な考えに修正することができます。しかし、心が不調の時は視野が狭くなっているため、なかなかネガティブな考えから抜け出せなくなります。そうしたときに、決まった手順を踏んで自分の考えを見つめ直すと、現実的な考えを導き出すことができます。これが、認知再構成というアプローチで行うことです。詳細は専門書に譲りますが、おおまかに説明すると、①なんでそう考えたんだっけ? ②他の見方はないかしら? ③じゃあ、現実的で適応的な考えは①と②を合わせたこんな考え方ね! という手順になります。

ここで大事なのは、自分自身で様々な視点から考えて、自分なりの結論を導き出すことです。初回にお話ししましたが、「こう考えたら?」と人から言われるアドバイスは、その人が受け入れられる状況やタイミングでないと心に響きません。自動思考は、そう考えるまでに至る理由があります。そして、その考えが視野の狭い考え方だったと気づくきっかけも、自分の経験の中から探した方が、納得度が高くなります。

以前、知り合いの心理師が「認知再構成法は、脳内のボケとツッコミ」と教えてくれました。前回と同じく、メールの返信が来なかった例を考えてみましょう。

この対話では、考えを無理やり変えていません。事実に気が付くことで視野が広がり、考えが自然と変わっているのです。このように、頭の中に優秀なツッコミがいると、見逃している事実に気が付けたり、他の可能性を考えたりできるようになります。そうして、自然と考えが変わっていきます。これが、認知再構成による「考えが変わる」過程です。

さて、2回にわたって「認知(考え)」にアプローチして“考えが変わる”ことについてお話しました。次回は、「行動」にアプローチすることで、“考えが変わる”ということについてお話していきます。

執筆者:木ノ内(小澤)満玲(公認心理師・臨床心理士)


参考文献:
竹田伸也(2019). 「マイナス思考と上手につきあう認知療法トレーニング・ブック」 遠見書房.