さて、これまで2回に渡って「発達障害」についてのお話をしてきました。今回は、②スケジュール管理が苦手な状況について、具体的に考えてみましょう。

②スケジュール管理が苦手

スケジュール管理の苦手さがあるのは、発達障害に限ったことではないかもしれません。ですが、発達障害の方々は、時間の管理が苦手な方が多い印象です。発達障害のお子さんは、時計も読めるし勉強もできるのに、準備が遅い、遅刻する、といったことが生じやすく、「次は何時間目?」と聞いても「知らない」といった答えが返ってきます。以前お会いした自閉スペクトラム症の患者さんは、「小学校5年生くらいまで、時間を意識したことが全くありませんでした」と仰っていました。その方は、何かをしていると入浴を忘れてしまうので、携帯のアラームを毎日かけてリマインドしている、と教えてくださいました。大人になっても、時間に対する認識がぼんやりしているのかもしれません。

さて、スケジュール管理が苦手という状況は、具体的にはどんな問題が生じているのでしょうか。時間にルーズなのでしょうか、予定を忘れてしまうのでしょうか、仕事が立て込むと作業効率が低下するのでしょうか、段取りが悪いのでしょうか。時間にルーズといっても、時間を気にしないために生じているのか、一つのことにこだわってしまい先に進まないことによって生じているのかによっても違います。

時間の感覚があって、自分の作業効率を客観的に把握していれば、「この作業には、あとどのくらいの時間が必要である」ということがなんとなく分かります。しかし、時間の感覚がないと、それが難しくなります。時間は目に見えません。したがって、作業が多くなったり、急な仕事が舞い込んできたりすると、作業を終わらせるのにどのくらいの時間かかるのか、ということが感覚的に分からなくなってしまうのです。そして、一概には言えませんが、発達障害の方々は、ストレスに弱い傾向があります。忙しくなると、心理的負荷がかかり焦りや不安が大きくなって、パニックになってしまうということも生じます。

いずれにしても、スケジュール管理が苦手という状況で、「何に困っていて、どのような状況でそれが生じるのか、どのような状態になればよいのか」について、具体的に考えることが大切です。

たとえば、「不注意で予定を忘れるため、他の人に迷惑がかかる。予定を把握させたい」といった状況はどうしたらよいでしょうか。たとえば、本人は手帳を常に携帯し、予定が入ったらすぐに書き込む習慣をつけるようにし、朝と昼の2回、必ず手帳を確認することを心がけると良いかもしれません。スケジュールのリマインドとして、携帯にアラームをかけても良いかもしれません。周囲ができるサポートとしては、朝礼でその日の予定を必ず報告してもらう方法や、誰もが確認できる場所にその日の各々のスケジュールを記入しておき、気づいた人が当人に声かけをする、といった方法が考えられます。予定を忘れることは誰にでも起こりうることであり、発達障害の人だけでなく、全体のミスの軽減にもつながるでしょう。

「仕事が立て込むと頻繁にミスが増えてパニックになっている。パニックをできるだけ減らしたい」という場合はどうでしょうか。ご本人ができることとしては、帯グラフや円グラフなどを用いてスケジュールを視覚的にする、さらに重要度で分けて整理するよう心がけると良いでしょう。突発的な予定が入ったら、即座にスケジュールに書き込み、その都度優先順位をチェックするようにします。膨大に感じる作業でも、案外視覚的に整理すると「なんとかなりそうだ」ということが分かる場合も多くあります。周囲ができるサポートとしては、できるだけ突発的な作業を与えないことが一番ですが、それもなかなか難しいのが現状です。できれば、スケジュールを本人とチェックし、重要度が高いものに集中するように指導する、もしパニックになっているようであれば、作業の優先順位を整理する時間を確保して、本人の気持ちが落ち着くようサポートするなどが考えられます。

初回にお伝えしたように、「問題」とは非常に曖昧なものです。「何が問題となっているのか」を整理するだけでも解決策は見えてきます。

最後は、③周りが気になり落ち着きがない場合、についてお話していきます。

執筆者:木ノ内(小澤)満玲(公認心理師・臨床心理士)


参考文献:
備瀬哲弘監修(2013).「ちゃんと知りたい―大人の発達障害がわかる本」.洋泉社.
千住淳(2014).「自閉症スペクトラムとは何か―ひとの「関わり」の謎に挑む」.筑摩書房.
岩波明(2015).「大人のADHD―もっと身近な発達障害」.ちくま新書.
佐々木淳(2024).「こころのやまいのとらえかた」.ちとせプレス.