これまで3回にわたって取り上げてきた「発達障害」について、いよいよ今回が最終回となります。今回は、③周りが気になり落ち着きがない場合、について具体的に考えていきましょう。
③周りが気になり落ち着きがない
“周りが気になる”という状態には、『注意』の働きが深くかかわっています。少し専門的な話になりますが、『注意』には次の3つの機能があります。
A :持続性(注意を持続させる)
B:分配性(注意を配分する)
C:転換性(注意を切り替える)
このうち一つでもうまく働かないと、“落ち着かない”という状態につながります。
学生時代には、周囲の配慮や自分なりの工夫で対応できても、社会人になると責任やプレッシャーが増し、うまく対処ができなくなってしまうことがあります。表面上は「あきらかに人の話を聞いていない」と見える場合もあれば、外からは分からなくても、ご本人としては気が散って集中できず、イライラしてしまうということもあります。
私がお会いした方の中に「人がいる空間が“嫌”です」とおっしゃる方がいました。“嫌”の内容を詳しく聞いてみると、“パソコンのカチカチする音が気になる”“人の身動きが気になる”“突然の物音がびっくりする”など、注意の問題が背景にあることが分かりました。ご本人には『注意』の問題という自覚はありませんでしたが、細かく聞いてみると、苦手意識の裏に注意の課題が隠れていることが明らかになる場合もあります。
この“周りが気になり落ち着かない”という状態がある場合、具体的にはどのような問題が生じているのでしょうか。一度で指示を理解できず確認の回数が多くなるのでしょうか、仕事の集中にむらがあって作業が遅れてしまうのでしょうか、周りの会話や電話の内容などにすぐ反応してしまい、他人の仕事の妨げになるのでしょうか。
もし、「一度で指示を理解し、確認する頻度を減らしたい(なくしたい)」のであれば、あとから振り返っても確認できるように、口頭指示だけでなく書面でも残すようにすると良いでしょう。集中や注意に配慮し、長々と話さず、重要なポイントだけ簡潔に伝えるという方法も効果的です。
「仕事の集中度にむらがあって作業が遅れるので、作業の期日を守らせたい」のであれば、外部の刺激をシャットアウトするためのイヤホンの使用を許可したり、「午前中は私語を禁止」といったルールを設けることも良いでしょう。先ほどの「人がいる空間が嫌」という方は、ノイズキャンセリングイヤホンを使用して、「ものすごく集中できるようになりました!」と感想をいただき、上司からも仕事効率が大幅に改善したという報告を受けました。
また、「周りの会話や電話の内容にすぐ首をつっこむため、他の人の仕事の邪魔になっている。他の人には構わないで欲しい」ということであれば、ついたてを立てて視覚的な刺激を減らしたり、席の配置を工夫する、もしくはフレックスタイムを活用して、人の少ない時間帯に勤務するなどの工夫をするのもひとつです。
このシリーズの第1回でお伝えしたように、発達障害という診断名がついている場合もありますし、そうでない場合もあります。たとえ診断名がついていても、特性の現れ方や程度は人それぞれです。これまでお話してきたように、
発達障害の支援のポイントは、「何に困っているのか」「どんな状況で問題が起きるのか」「どうなれば解決につながるのか」を具体的に整理することです。
周囲からすると「もう大人なんだから」と感じることもあるかもしれませんが、一人が働きやすい環境は、他の人にとってもメリットになる場合が多いものですし、当事者にイライラする機会が減って、職場全体のストレス軽減にもつながります。それぞれが適材適所で力を発揮できる社会でありたいものです。
執筆者:木ノ内(小澤)満玲(公認心理師・臨床心理士)
参考文献:
備瀬哲弘監修(2013).「ちゃんと知りたい―大人の発達障害がわかる本」.洋泉社.
千住淳(2014).「自閉症スペクトラムとは何か―ひとの「関わり」の謎に挑む」.筑摩書房.
岩波明(2015).「大人のADHD―もっと身近な発達障害」.ちくま新書.
佐々木淳(2024).「こころのやまいのとらえかた」.ちとせプレス.