先日、ふと「四苦八苦」の“苦”とは何を指すのか気になり、調べてみました。仏教では、最初の「四苦」は生老病死という根本的な苦しみ、残りの「四苦」は、愛するものとの別れ、嫌なものとの遭遇、欲しいものが得られないこと、そして心身が思い通りにならないこと、を指すそうです。

こうしてみると、確かに私たちの日常は多くの「苦」、すなわちストレスに満ちています。そして、その多くは避けることができません。このような世界や人生を、私たちはどのように生きていけば良いのでしょうか。

近年、広く知られるようになったマインドフルネスは、リラクセーションの文脈で語られることがあります。不安や落ち込み、怒りをなくし、心を穏やかにする方法だとイメージされることもあります。しかし、本来のマインドフルネスは、ストレスやネガティブな感情を“なくす”方法ではなく、それらを“なくそうとせず、そのままにしておく”ための実践です。

別のコラムでも触れましたが、不安を消そう、落ち込まないようにしよう、怒りを抑え込もうとすればするほど、かえって感情にとらわれてしまうことがあります。嫌な感情を抱くのは苦しいものですし、逃げたくなるのも自然な反応です。しかし、不快な感情を「見ない」ようにするよりも、「それは、不安になるよね」「落ち込んだっていいじゃない」「私は腹が立っているんだな」と、そのまま観察してみると、感情に振り回されにくくなり、少しずつ心の余裕が生まれてきます。

マインドフルネスの中核にあるのは、過去への後悔や未来への不安に振り回されることなく、「今ここ」で起きている体験に意識を向け、感情や思考を評価せずに観察する姿勢です。

私たちは日常の多くを、オートパイロット(自動操縦)の状態で過ごしています。食事をする、着替える、入浴する、駅まで歩く、車を運転するなど、こうした行動の多くは、無意識のうちに行われています。思考も同じです。気づけば、頭の中で同じことを何度も考え続けていた、という経験は誰にでもあるでしょう。以前ご紹介した「反芻(はんすう)」もその一つです。反芻しているとき、私たちは「考えよう」と意識しているわけではなく、無意識のうちにその思考の流れに入り込んでしまっています。

マインドフルネスでは、オートパイロットの状態で行っていた行動や思考に意識的に注意を向けます。そして、「良い・悪い」と判断せずに、「私は今、こういう気持ちなんだ」「こんなことを考えているんだ」と、ただ気づくことを大切にします。そうして、自分の内面を客観的に捉えられるようになると、自分の中に取り込むことができ、感情に飲み込まれず、「このあとどうするか」を選べる余裕が生まれてきます。いつもの反応や行動パターンから抜け出して、これまでとは違う行動を選択できるようになるのです。

マインドフルネスには、日常生活の中で気軽に取り入れられるものから、時間をかけて取り組む瞑想まで、さまざまな実践方法があります。ただし、すぐに身につくものではありません。繰り返し練習を重ねながら少しずつ体得できる、いわば「筋トレ」のようなものです。

現在私は、マインドフルネスの習得そのものを目的とした支援は行っていません。ですが、不安が強くて行動を避けてしまう方(厳しい上司への報告を先延ばしにしてしまう、満員電車がつらくて始発で出勤しているなど)や、心配事や嫌だった出来事を繰り返し反芻してしまう方には、マインドフルネスの概念をご説明し、その場で簡単なワークを一緒に練習することもあります。とくに、イメージを思い描くのが得意な方や、「瞑想」に抵抗感が少ない方には、比較的取り入れやすい印象があります。私自身も、時々マインドフルネス瞑想会に参加しているのですが、「難しいな」と感じることも少なくありません。それでも、「私は今、難しいと感じているんだな」と気付くことが、実践なのだと思いながら取り組んでいます。

最近では、アプリや動画を用いた「デジタルマインドフルネス」も普及していますが、デジタルの誘導では心地よい体験ばかりが強調されて、肝心の「不快さと共にいる力」が育ちにくいという懸念も指摘されています。

マインドフルネスの本質は、自分のストレスに自覚的になって、不快なことを受け入れ、巧みに付き合っていく力を養うことにあります。私たちは、四苦八苦のない人生を生きることはできません。ですが、苦しみを「なかったこと」にせず「今、ここ」にあるものとして見つめられたとき、少しずつ自分が歩みたい道を進んでいけるのかもしれません。

執筆者:木ノ内(小澤)満玲(公認心理師・臨床心理士)


参考文献:
柴崎友香(2024).「あらゆることは今起こる」.医学書院.
越川房子(2021).「マインドフルネスの今―そしてこれから」心理学評論.64(4),619-630.
熊野宏明(2016).「実践!マインドフルネス 今この瞬間に気づき青空を感じるレッスン」.株式会社サンガ.


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