先日、いつもはTVをご覧になっていらっしゃる患者さんがTVを付けていなかったので理由をうかがうと、「ニュースを見ていても、不安になるだけだから」と仰っていました。

たしかに、世界の一部では戦争が起きていたり、日本のどこかでは自然災害や事故・事件が起こっていたり、ニュースには明るい話ばかりではなく、なんとなく心がザワザワするものも多く含まれています。その患者さんの言葉を聞き、「私たちは、世界のことに関しても、日本のことに関しても、個人のことに関しても、不安を感じることがたくさんあるのだなぁ」としみじみと実感しました。

不安は、もっともつらい気持ちの一つです。コロナ渦の真っ只中であった2020年頃を思い出していただくと分かると思いますが、治療法も確立されていない、いつどこで自分が感染し感染させるか分からない、この状況がいつ終わるかも不透明、そんな状況で毎日不安がつきまとい、心身共に疲弊していたと思います。

不安になると、私たちの体には様々な変化が起こります。筋肉が緊張したり、手のひらに汗をかいたり、心拍数が上昇したり、息苦しくなったりします。そして、不安を感じそうな状況を避けたり、危険が起こらないように物事を完全にコントロールしようとしたりして、過活動になったりもします。なので、不安な状況が長く続くと、体も心も疲れてしまうのです。

しかし、このように多くの人が不安になるだろう状況下であっても、強い不安が長く続く人と、不安が比較的すぐに治まっていく人がいます。公共の場でマスクをつけるかつけないかについてのトラブルが多かったのも、個人の不安の強さの違いが大きかったのだろうと思います。では、不安の強さの違い、そして治まり方の違いは、どうして生じるのでしょうか。

そのヒントは、私たちの“考え方” にあります。

私たちが不安を感じているとき、“未来の自分が危険な目に遭うかもしれない”という考えが頭の中に浮かんでいます。過去のことに対して不安になることはありません。

不安は常に未来の出来事、つまり“起こるかもしれない”悪い結果に対する感情です。

コロナ渦におけるマスクの使用を例に考えてみましょう。Aさんは、高齢な両親と同居していました。コロナは高齢者が重症化しやすいという事実がわかっており、報道等でもさかんに注意が呼びかけられていました。また身近な人がコロナ感染し、命にかかわるような状況になったこともありました。 この場合、Aさんは、自分がコロナに感染した場合の危険度をかなり高く見積もるでしょう。両親に感染させてしまうかもしれませんし、自分が症状によって苦しめられるかもしれません。Aさんにとって、マスクをしないでコロナに感染することは危険度100%(もしくはそれ以上)に感じるでしょう。

一方、Bさんは、コロナに感染した方 が周囲にあまりいなくて、感染したとしても 軽症ですんだと聞いていました。マスクをしていなくても、必ずコロナに感染するわけでもなさそうだという話も聞きました。『ワクチンもできたし、今後は今の技術をもってすれば、早い段階でコロナを治す薬も出るだろう』などと考えていたとすると、自分がコロナに感染した場合の危険度はあまり高くならないでしょう。

これはほんの一例で、実際にはいろいろなパターンがあったとは思いますが、このように“未来の自分が危険な目に遭うかもしれない”という予測、つまり未来に対する危険度の見積もりの違いによって、不安の強さは変化します。

では、どのようにすれば、早めに強い不安を和らげることができるのでしょうか。
次回からは、その方法についてお話していきます。

執筆者:木ノ内(小澤)満玲(公認心理師・臨床心理士)


参考文献:
デビッド・A・クラーク&アーロン・T・ベック 大野裕監訳(2024).「不安・心配と上手につきあうためのワークブック」 岩崎学術出版社.
デニス・グリーンバーガー他 大野裕監訳(2017). 「うつと不安の認知行動療法練習帳」 創元社.
ドーン・ヒュープナー 上田勢子訳(2017).「だいじょうぶ 自分でできる心配の追い払い方ワークブック」 明石書店.