新しい年を迎えると、「今年こそ頑張らなくてはならない」「もっと成長しなければいけない」と、つい自分に厳しい目を向けてしまう人は少なくありません。心機一転に胸が高まる人がいる一方で、期待に応えようとするあまり、知らず知らずのうちにプレッシャーを抱えてしまう人もいます。とくに真面目で責任感の強い人ほど、理想と現実のギャップに悩み、必要以上に自分を責めてしまいがちです。そんな心の負担をそっと緩めてくれる考え方として、近年注目されているのが“セルフコンパッション(Self-Compassion:自分への思いやり)”です。

セルフコンパッションは、心理学者クリスティン・ネフが提唱した概念で、『辛い時や失敗した時、あるいは自分の気に入らない部分に気づいた時などの困難な状況に直面した時に、親しい友人に接するように自分自身を理解し、サポートする』という姿勢を指します。これは甘やかしとは異なり、むしろ前に進む力を回復させることのできる考え方です。セルフコンパッションには、①Self-Kindness(自分への優しさ)、②Common Humanity(他者との共通の人間性)、③Mindfulness(今の経験をそのまま受けとめること) 3つの要素があります。細かいことは、専門書を読んで学んでいただければと思いますので、今回は具体的な状況において、どうしてセルフコンパッションの視点が役に立つのかということをお伝えしたいと思います。

Aさんの例を考えてみましょう。Aさんは仕事でミスが続いてしまい、「自分はダメだ」「どうしてこんなこともできないんだ」と自分を激しく責めて、夜も眠れない状態に陥っていました。業務に取り組むたびに、「また失敗するのではないか」という不安が高まり、緊張で集中できず、睡眠不足も重なってさらにミスを繰り返してしまっていました。これは、Aさんが望んだ姿と言えるでしょうか。

もしAさんが、セルフコンパッションの考えを取り入れて、自分への声かけを少し変えてみたとしたらどうでしょうか。「誰にでもミスはある」「今できることから修正すればいい」と、自分を否定する言葉ではなく、友人に向けるような温かい言葉を自分に向けていたなら、緊張や不安は徐々に和らぎ、仕事にも前向きな気持ちで向き合えるようになったかもしれません。

Aさんの例からも分かるように、セルフコンパッションは“甘やかし”や“わがまま”ではありませんし、“誰にでもミスはあるから、何もしなくていい”という発想とも違います。むしろその逆で、自分を不必要に傷つけないことで、目的に向かって行動できる状態を整えるための方法です。今回の例でいえば、「ミスを減らし、仕事を丁寧に進めていく」ために、自分に向ける言葉を優しく調整することで、自分が望んでいた方向に進むことができるのです。これが、セルフコンパッションの本質です。元々かけている言葉が、もし自分を鼓舞するような言葉であれば、あえて言葉を変える必要はないかもしれません。その言葉は、本当に自分が次に進むために役立つ言葉なのだろうか、と一回立ち止まって考えてみるのも良いかもしれません。

新年は気持ちを切り替えやすいタイミングだからこそ、緊張や不安などのプレッシャーが大きくかかるものです。もしかすると、「もっと頑張る」よりも「自分をいたわりながら進む」という方向転換が、大きな効果を生むかもしれません。セルフコンパッションは、失敗を恐れず挑戦できる心の土台をつくることができますし、それは長期的なパフォーマンス向上にもつながります。今年一年をしなやかに進んでいくために、セルフコンパッションを取り入れてみてはいかがでしょうか。

執筆者:木ノ内(小澤)満玲(公認心理師・臨床心理士)


参考文献:
クリスティン・ネフ著 石村郁夫・樫村正美・岸本早苗訳 (2021).「セルフコンパッション」.金剛出版.
大宮宗一郎・富田拓郎(2021).「マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC)とは何か:展望と課題」.心理学評論.64(3),388-402.


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