先日、「レジリエンス」をテーマに新人研修をしてほしい、という依頼を受けました。その部署では、入社から日が浅い職員ほど、さまざまな理由から早期に退職する傾向があり、そのことがテーマを選んだ背景にあるそうです。

アメリカ心理学会(APA)は、レジリエンスを「困難な人生経験にうまく適応していく過程と、その結果」と定義しています。つまり、周囲の支援を得ながら、状況に応じて考え方や行動を調整し、少しずつ自分を立て直していく――その動き全体がレジリエンスです。

研修資料を作るために調べていくと、「レジリエンス」という言葉は、もともと「外から力を加えられて変形した物体が、そのエネルギーを吸収し、力が取り除かれると元の形へ戻る性質」という意味をもち、物理学や材料工学で使われてきたようです。このイメージを人の心に重ねると、「そのエネルギーを吸収」→「その経験を自分の糧とし、生きる力にする」ということになるでしょうか。レジリエンスとは、つらいことがあっても何事もなかったように元へ戻ることではありません。また、傷ついた経験を、すぐに「成長の糧」に変えなければならないわけでもありません。その経験を通して、自分に必要なものや、自分を支えてくれるものを知っていく。そうして、一時的に形を変えながらも、再び自分らしく歩き出せる状態を取り戻していくことなのだと思います。

私は職員の相談を受けていますが、そこはレジリエンスが育っていく場の一つです。
相談で初めに行うのは、何がストレスになったのか、そのとき何を感じ、どのように受け止めたのかを、丁寧に聴くことです。解決方法を急いで探す前に、その人の心に起きたことを一緒に確かめていきます。つらい感情は、決して邪魔なものではありません。ときにそれは、「自分が本当は何を大切にしているのか」を教えてくれる、大切な手がかりになります。

例えば、「落ち込み」の奥には、大切なものを失った感覚や、期待がかなわなかった痛みが隠れています。それを丁寧にたどることで、「私は評価されたかったんだ」「信頼してほしかったんだ」と、自分の願いに気づくことがあります。
「不安」は、脅威や先の見えなさを感じたときに生じやすい感情です。「失敗してしまうのが怖い」「嫌われるのが怖い」と知ることができれば、自分が何に備えたいのか、どのような支えを必要としているのかが見えやすくなります。
「怒り」の背景には、自分の権利や大切にしている価値観、守りたい境界線が脅かされた感覚があります。「私はルールを大事にしている」「相手への配慮を大切にしている」と気づけば、自分の価値観を知る入り口にもなります。

こうした対話を重ねるうちに、少しずつ「自分とはどのような人なのか」が見えてきます。そして、「自分には、こんな良いところもあった」「これまでも、こうやって乗り越えてきた」と、自分の長所や経験にも目を向けられるようになります。
心に少し余白が戻ってきたら、以前好きだったこと、楽しかったこと、ほっとできることを、無理のない範囲で日常に取り戻していきます。小さな達成感や喜びが積み重なると、目の前の苦しさだけに向いていた視線が、少しずつ周囲へ広がっていきます。
その過程を経て、「この状況を少し良くするために、何ができるだろう」と考えられるようになります。「自分を理解してくれそうな人は誰だろう」「相談できる場所や利用できる制度はないだろうか」と、自分を支える人や方法を探し、選択肢を増やしていきます。この頃には、ストレスを感じた場面を思い返しても、「今なら、少し違う対応ができるかもしれない」と感じられるようになっています。

先日、ある相談者が「資料について、先輩と一緒にブラッシュアップして、良いものを作ることができました」と報告してくれました。私は、「最初にこちらへ来たときは、ブラッシュアップすることを『できていないところを指摘されている』と感じて、つらかったのですよね。」と伝えました。その方は「そういえば、そうでしたね」と笑っておられました。
この変化も、レジリエンスが育った姿の一つなのだと思います。

レジリエンスは、安心して話を聴いてくれる人、失敗してもやり直せる環境、必要なときに助けを求められる仕組みがあってこそ、その人の中にある回復する力が動き始めます。生きていれば、困難やストレスを避けることはできません。大切なのは、一度も揺らがないことではなく、揺らいだときに戻ってこられる場所や道があると知っていることです。

個人にレジリエンスを求めるだけでなく、その人が揺らいだときに受け止められる職場であること。人と職場、その両方がしなやかになることが、働き続けられる組織につながっていくのではないでしょうか。


執筆者:木ノ内(小澤)満玲
公認心理師・臨床心理士。自治体の教育相談・就学相談に長年携わり、現在もスクールカウンセラーとして活動。医療領域では、都立病院の緩和ケア病棟・緩和ケアチーム、大学病院のうつ病専門外来で認知行動療法を担当している。


参考文献:
足立啓美・鈴木水季(2022).「子どもの逆境に負けない力「レジリエンス」を育てる本」.(株)法研.
久世浩司(2015).「マンガでやさしくわかるレジリエンス」.日本能率協会マネジメントセンター.
American Psychological Association. (n.d.). Resilience.https://www.apa.org/topics/resilience